最高裁判例「預貯金は遺産分割の対象となる」の実務上の影響
最高裁大法廷判決の概要
遺産分割審判にかかる許可抗告事案において,最高裁判所は,共同相続された普通預金等は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解する旨判示しています(最高裁大法廷平成28年12月19日判タ1433号44頁)。
従来の取り扱いについて
本判決が出るまで,預貯金は,可分債権であることから,「その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)と理解されてきました。また,最判平成16年4月20日民集214号13頁は,被相続人死亡後に特定の相続人が被相続人の貯金を解約して払戻しを受けた事案で,当然分割を前提として,相続人からの不当利得返還請求を認めています。
しかし,実務上,遺産分割協議の際に,預貯金も遺産の範囲に含める旨の合意をしたうえで,不動産や有価証券を取得する相続人との調整弁のような形で預貯金を分割することも多く行われてきました。その点では,本判決は,このような実務の取り扱いを踏襲したものといえるかもしれません。
実務上の影響
他方で,対金融機関との関係では,実務上の影響が大きく出てくることが予想されます。
従来までも,金融機関は,相続人全員の合意がない限り原則として法定相続分通りの払い戻し請求も拒否する運用をとるところが一定数ありました。しかしながら,上記の最高裁判決を前提に,内容証明郵便や場合によっては訴訟によって請求すれば,法定相続分通りの払戻請求も認められる傾向にありました。
今回の最高裁判決によって,金融機関が法定相続人全員の合意なく法定相続分通りの請求を認めない理由ができてしまったといえます。
その結果,相続開始後,すぐに必要な葬儀費用や相続税の納税費用の工面が困難となることが予想されます。
今後は,被相続人の側で生命保険に加入して相続税等の対策を行うこと,相続発生後は相続人全員でひとまず預貯金について一部分割をして相続税等の準備をすることなどによって対応することなどが考えられます。