【労働者側/IT業】【残業代請求・損害賠償請求】管理監督者の名のもとに長時間の現場労働を強いられ体調不良となっていたケースで350万円の支払を受けた事案
依頼主 男性(IT業)
相談前
ご相談者様は、マネージャーとして経営に参画することができると説明されて転職したものの、実態は、チームの現場作業の責任のみを負い、現場作業を長時間行うこととなり、2度の休職を経て退職しましたが、会社からは、管理監督者を理由に残業代が払われていませんでした。
相談後
ご依頼いただき、会社側に、未払残業代の請求と、安全配慮義務違反を理由とした損害賠償請求を行いましたが、会社側が強硬な態度であったため、訴訟提起をし、会社側から支払を受ける形で最終的に和解となりました。
弁護士のコメント
(1)管理監督者性
ご依頼者様のように、「マネージャー」などの管理職とされる役職は、「管理監督者」として残業代の支給をしない、とされているケースが多くあります。
しかしながら、労働基準法41条2号に規定される「監督若しくは管理の地位にある者」(いわゆる管理監督者)は、企業において「管理職」とされる役職と一致しないことが多々あり、管理監督者であることを理由に残業代が支払われないケースでは、労働基準法上の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当すべきであるのか、検討すべき事案が多くあります。
管理監督者性の判断基準は、行政通達や過去の判例・裁判例により整理されてきており、おおむね①経営者との一体性(経営に参画し、労務管理上の決定権限があるか)、②自身の労働時間に関する裁量があるか、③地位にふさわしい待遇がなされているか、などにより判断されますが、このような判断基準も抽象的なものであり、より具体的な評価根拠事実を主張・立証することになります。
本件においても、ご依頼者様が参加した会議体の組織上の位置づけや具体的な会議の内容・影響等、具体的な人事への関与を議論し(①)、実際の業務内容や働き方の詳細を議論(②)、社内での給与に関する比較(③)などをすることで、管理監督者に該当しないことを主張し、管理監督者性がないことを前提とする和解をすることができました。
(2)安全配慮義務
使用者は、労働者の生命・身体等の安全を確保する義務があり(労働契約法5条)、「安全配慮義務」と呼ばれています。長時間労働による疾病のケースでも、このような安全配慮義務が問題になり、「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」(最判平成12年3月24日労判779号13頁、電通事件)とされています。
しかしながら、上記の判断基準も抽象的なものであり、このような義務違反を問うには、具体的に当該事案において、会社側にいつどのような安全配慮義務がある状態であったのか、会社側に予測可能性・結果回避可能性があったのか、会社側はいつどのような措置をとらなければならなかったのか、労働者側が主張・立証する必要があります。
また、多くの資料が会社側にあるため、手持ちの証拠に加え、会社側に提出を求め、具体的な証拠を用いて、安全配慮義務の具体的な内容と義務違反を詰めていくことは大変な作業であることが多いです。
本件においても、当時の業務量、会社が健康状態悪化に気づいていたこと、業務の量の調整が適切ではなかったことなどを大量の資料からポイントを絞って整理していきました。
(3)実労働時間性
残業代を請求するにあたり、時間外労働や休日労働をしたことの立証責任は労働者側にあり、会社側は、この点を争うことも多くあります。
本件は、タイムカードがありましたが、このようなタイムカードがある場合は、客観的な記録であって、特段の事情がない限り、タイムカード打刻時間をもって実労働時間と事実上推定されます。
業務多忙のため休憩時間が取得できないケースも多くあり、このような場合は、具体的に労働時間性を基礎づける明示・黙示の指示や実際の労務提供の事実の立証が必要になります。
(4)労働審判か訴訟か
労働審判は、労働トラブルの早期解決を目指して平成18年よりスタートした制度であり、裁判官と労働審判員2名の労働審判委員会が、裁判所の期日(原則3回以内)に審理を終える仕組みとなっています。
「ざっくり」解決できる見込みがあれば労働審判は優れた制度ですが、労働審判に異議がある場合、通常訴訟に移行することになり、かえって労働審判分の時間が無駄になることもあります(労働審判にて一定の整理がなされているとも言えますが、担当の裁判官も異なるため、実質的に審理をやり直すような進行も珍しくありません。)。
本件においては、会社側が残業代について管理監督者性を強く主張し、一切の支払が拒否されていたこと、安全配慮義務違反についても事実認定が必要であり、歩み寄りが難しいと考えられたことから、訴訟を選択して提起しています。
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感謝の声
約2年間に及ぶ長期間の中、論点を明確にして膨大な書類からもポイントを整理して進めて頂いたことで納得できる金額での和解まで導いて頂けました。
こちらは不明なことが多い中、尋問に向けてもリハーサルを何度も行って頂けたことが自信となり、自信を持ってのぞめたのも先生のサポートのおかげと思っています。ありがとうございました。