【労働者側/IT業】【未払賃金・残業代請求】合併を契機として行われた賃金の不利益変更によって生じた差額の賃金と元の賃金をベースとした残業代を請求し300万円の支払を受けた事案
依頼主 男性(IT業)
相談前
相談者様は、勤務先の会社が、別会社に吸収合併され、その際に新会社の就業規則・賃金規程に沿って、大幅に減給されることとなり、退職までの間の差額の賃金と元の賃金をベースとして算定した残業代と実際に支払われた残業代との差額を請求したいということでした。
相談後
ご依頼いただき、賃金の不利益変更は理由がないことを主張し、最終的には賃金と残業代の差額の合計300万円を回収することができました。
弁護士のコメント
(1)賃金の不利益変更
賃金等に関する不利益変更は、原則として、使用者と労働者の個別合意によることになります(労働契約法8条、同法9条)。労働者が個別に同意しない場合でも、就業規則の作成・変更により、画一的に処理する余地もありますが、その就業規則の変更に合理性がなければなりません(労働契約法10条本文)。
このような合理性の判断の具体的な下位基準としては、「就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである」(以上について、最高裁昭和43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁、最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号60頁、最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決・民集51巻2号705頁、最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁)とされています。
賃金は、雇用契約の最も基本的かつ重要な要素であり、労働者が被る不利益の程度は大きいといえますので、その不利益変更は厳格に判断されるものと思われます。
(2)合併に伴う賃金の不利益変更
合併に伴って、新会社の就業規則が適用される結果、大幅に減給されることとなった事案としては、東京地裁平成29年3月28日労判1180号73頁などが挙げられます(株式会社の事案ではなく、労働組合の事案ですが、本論点については、組合の規則が労働契約法の就業規則と解することができると判断されています。)。
上記裁判例では、前記⑴の労働条件の不利益変更に関する最高裁判決を引用し、この枠組みのなかで検討しており、合併に伴う他の従業員との均衡を図るという点は、「使用者側の変更の必要性の内容・程度」という考慮要素において判断されています。
そのため、合併に伴って賃金が不利益変更されるという一見特殊なケースでも、判断枠組み自体は一般的な賃金の不利益変更と同じであり、基本的には労働者の不利益の内容・程度と使用者の不利益の必要性の内容・程度の比較衡量がなされるものと考えられます。
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