【建物明渡請求】【オーナー側】賃料未払のある問題賃借人を訴訟により退去させた事案
依頼主 不動産オーナー
相談前
ご相談者様は、一棟のマンションを所有する不動産オーナーであり、そのうちの1部屋の借主が、賃料を度々遅延したり一部支払っていなかったりするだけではなく、近隣の住人に迷惑をかけており、退去させたいと考えご相談に来られました。
相談後
ご依頼いただき、これまでの賃料遅延や未払の状況をまとめ、未払賃料催告兼契約解除通知の内容証明郵便を発送するとともに、直ちに訴訟提起を行いました。
借主は未払賃料の一部を支払ったうえ争ってきましたが、訴訟上の和解にて退去をさせることができました。
弁護士のコメント
(1)賃料の支払いに関する立証責任
賃料を支払わない賃借人からは、賃料を払ったはずであると反論されることも少なくありません。
賃料が払われていないことを賃貸人が立証しなければならないのか、賃料を支払ったことを賃借人が立証しなければならないのかは、一般に、後者の賃借人が立証すべきとされています。
しかし、賃料不払の事案は、数か月全く払わない場合もあれば、遅延を繰り返して1か月分不足しているなどの事案もあります。過去に不足している賃料について、オーナーが委託している管理会社などが、熱心でなかったり、記録を残していなかったりすると、賃借人から、催促もされていないし、払っているはずだ(仮に払っていなかったとしても、催促もされておらず、信頼関係破壊まで至らない)、などの余計な争いになることもあります。
賃料の支払についての立証責任が賃借人にあるとはいえ、遅延や不払いがあれば、適切に催促し、その記録を残しておくほうがよいと思われます。
(2)更新料の支払義務
賃料不払いがある事案では、賃貸借契約の更新時期に適切に更新手続が取れていない事案も見られます。
定期借家契約ではない普通賃貸借契約ですと、更新手続をとれていなくとも、賃貸借契約自体は、法定更新(借地借家法26条1項)されます。
その場合に、賃貸借契約書記載の更新料を支払う義務が生じるかも争いになることがあります。更新料を支払う義務が生じていれば、未払賃料同様に、滞納金ということになります。
過去の裁判例も判断が分かれています(東京地裁平成10年3月10日判タ1009号264頁、東京地裁平成9年1月28日判タ942号146頁など)が、当該賃貸借契約書の規定文言が、法定更新の場合にも更新料を支払う義務があると読み込めるかどうかが重要であると思われます。
オーナー側としては、少なくとも賃貸借契約書において、更新料の支払い義務がある契約更新には、法定更新の場合が含まれることを明記しておくとよいと思われます。
(3)退去を確保するための担保規定
裁判上の和解において、賃借人が退去を約束したとしても、実際に退去しなければ、強制執行をしなければならず、手続的・費用的な負担が生じることとなります。
そのため、可及的に賃借人が退去しなければならないと思うように条項化しておくことが考えられ、実務上は、①請求額全額の支払義務を認める、②退去をした場合には、①のうち一部のみ支払えば残額を免除される、という規定とすることがあります。
本件においても、もし退去しなければ、請求額全額を支払わなければならないという担保規定も入れたうえで、無事退去してもらうことができました。